【イベントレポート】第4回 儲かるスマート農業サミット@東京「農山漁村地域の未来」
2019年9月27日(金)にオープンイノベーションオフィスSENQ京橋で「スマート農業サミット」が開催された。本イベントは一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(宮崎県児湯郡新富町、代表理事:齋藤潤一、以下こゆ財団)が主催し、2019年6月から毎月都内で開催され4回目を迎えた。スマート農業に関する最新の知見の共有と、全国の農業ベンチャーへ新富町移住の魅力を伝えることを目的に開催されている。
ゲストにはスマート農業実践農家のThe CAMPus代表理事井本喜久氏や、株式会社ヴァカボ代表取締役の長岡康生氏、パパイヤ研究家の岩本脩成氏、アグリテック活用農家の福山望氏を迎えた。新富町役場の現職公務員の岡本啓二氏がMCを担当。今回のイベントでは、都内の農業ベンチャーや起業検討者などが集まった。
こゆ財団は現在、宮崎県新富町から日本の農業の課題解決を目指しクラウドファンディングを実施中で、「めざましテレビ」や、「読売新聞」で紹介されるなど各種メディアから注目を集めている。
イベントでは、ゲストとのトークセッション開催前に農林水産省大臣官房政策課の葛井氏(以下:葛井)より、農山漁村での起業促進「INACOME(イナカム)」説明が行われた。
農林水産省が起業者を対象としたWebプラットフォームを開設
葛井:農林水産省では、農山漁村での起業促進「INACOME」の一環として、起業者を対象としたWebプラットフォームを開設しました。地域の農林水産業が発展するためには、農業者に対する支援だけでなく、「地域全体が面白く・活気あふれる環境にすること」が重要と考えています。
また、農山漁村地域では人口減少や高齢化といったネガティブなイメージがある一方で、そこには「文化、景観、農産物、人などといった魅力的な資源」が豊富にありビジネスチャンスに溢れています。
そこで、農林水産省は、昨年度から「INACOME」を実施し、農山漁村における起業促進を通じて持続可能な地域の創出に取組んでいます。
農産漁業の起業で起こっている課題とは?
葛井:昨年度のINACOMEでは、農山漁村の起業者10名と連携し、農山漁村での起業における課題の整理を行いました。そこで見えてきたものは、「地域には起業について気軽に相談できる人材がいない」、「地域の創業支援制度はあるが、そのサポートを受けられるレベルに達するまでの橋渡し役がいない」といった課題です。
このため、今年度のINACOMEでは、全国のローカル起業者をオンライン上でつなげるWebプラットフォームを開設しました。全国の起業者との気軽な情報交換の場から、「共有する課題の解決」に役立てていただくことや、互いに進捗状況を共有することで「切磋琢磨できる環境」を整えたいと考えています。
また、起業者だけでなく、地域事業者やメンターや資金提供者、関係自治体などの起業支援者にもプラットフォームに参加いただき、マッチングなどを通じて「多様な関係者が起業者をサポートできる体制」をつくりたいと考えています。
持続可能な地域を作るためには、実際に農業に従事することだけでなく、地域資源を活用したビジネスを展開することも重要だと考えておりますので、農山漁村での起業にご関心のある方は是非プラットフォームをご活用下さい。
※詳細は、農山漁村地域の起業支援プラットフォーム「INACOME」の開設についての農林水産省プレスリリースをご覧下さい。
スマート農業実践農家、The CAMPus 井本氏、ヴァカボ長岡氏、パパイヤ王子が登壇!
岩本脩成氏(パパイヤ研究家/以下、岩本):パパイヤ王子と言われております、岩本です。私は宮崎県出身で、高校卒業から上京して再生医療の研究開発に携わっていました。去年こゆ財団さんに都内のイベントで出会い、ご縁をいただき新富町に移住しました。今はメディカルフルーツの「パパイヤ」に興味を持ちまして、パパイヤを育てています。
長岡康生氏(株式会社ヴァカボ 代表取締役/以下、長岡):365(サンロクゴ)マーケットという「食のオタクコミュニティ」事業を行っています。日本橋に会社があります。野菜ソムリエや栄養士など食に興味関心のある方を「食のオタク」と命名させていただいています。その方々にお声かけし、我々が企画したBtoB向けに販売するイベントでご活躍の場所を作っています。
イベントは、食育セミナーをメインで開催しています。開催企業さんのオフィスに契約農家さんの野菜を持参して、「野菜の保存の仕方」などをクイズ形式でご案内しています。これからも食のオタクの熱い方々と一緒に「食を伝える」という事業にフォーカスしていきたいです。
井本喜久氏(スマート農業実践農家・The CAMPus代表理事/以下、井本):インターネット農学校 The CAMPusを運営しています。2年前からサービスを開始して、インターネット農学校で全国にいらっしゃる農家さんを集めて、その方々に「生き方」や「考え方」、「農業に関する情報」を配信しています。入学金500円、月々500円という非常に安い価格で運営していますので、是非みなさんも入会していただけたら!!(会場笑)
その他に、次の世代の生き方として「農業は面白い」という観点から、全国の耕作放棄地を無くしていく活動と、農業を中心としながら限界集落を元気にする活動も行っています。若者達が住み着いて面白いビジネスを始めていけるような関係作りを創っていく活動をしていますね。
福山望氏(スマート農業実践者/以下、福山):宮崎県で生まれた、宮﨑を46年出たことがないゴリゴリの専業農家です。
(会場どよめき)
自分は、新富町でピーマンを作っています。70a(アール※)の規模で、親も同じくらいの面積をもっています。それぞれ事業主で、合わせて約2ha(ヘクタール※)ピーマンを育てています。中学の時に、親の影響でパソコンを与えられました。就農後もITを導入していまして、スマート農業に興味を持ちました。
こゆ財団ができて、イベント登壇で外に引っ張り出されています。色々な機会をもらいつつ、自分の技術を上げていければなと思い参加しています。
※1a(アール)は1辺の長さが10mの正方形の面積=10m×10m=100㎡
※1ha(ヘクタール)は1辺の長さが100mの正方形の面積 =100m×100m=10000㎡=100a
岡本啓二氏(新富町役場・こゆ財団執行理事/以下、岡本):農業って「もうからない」とか「大変」と聞くことが多いんですが、実際はどうなんでしょうか?
福山:やり方次第ですね。もうかるのは難しいと思いますが、サイクルに入ればできると思います。大体、僕は70aで1,200万円くらいです。スマート農業を進めて行くと、反(たん※)収が1,000万円くらいで7,000万円くらい行くんじゃないかと。
※1反=約1,000㎡=約10a
人を育てない限り、テクノロジーをいくら研いても意味がない
岡本:これからの農業は福山さんの中ではどういう風に変わっていくと思いますか?
福山:もうかる農家ともうからない農家に分かれていくと思います。スマート農業に興味があったりロボット化したりしていけるような、「経営を回していける農家」じゃないと中々難しいと思います。農家には台風などの天変地異もありますので。
岡本:「スマート農業」や「テクノロジー」を農業がどう活かしていくと面白いと思いますか?
井本:テクノロジーを上手く使えば、お金をかけずに省力化させて農業を展開できる。その時に大切なのは「自然と共に歩むという感覚」だと思います。テクノロジーの進化はどこに向かうかといったら、僕は極論は「自然に向かう」と思っています。要はみんなテクノロジーって快適になろうとしてやっている訳なんですけど、ほとんどの答えは自然の中にあると思っていて。今後も高齢化は進むしテクノロジーに頼ろうっていう動きは進むと思うんです。だけれど、テクノロジーを誰が使うかっていうのがすごく大事で、「人を育てない限りテクノロジーをいくら研いても意味がない」と思っています。
なので、「自然環境と共に生きるっていう価値観にシフトできる方」を育てつつ、そういう方達と共にテクノロジーを研いていくともっと面白い機会がいっぱい見つかると考えて活動しています。
岡本:テクノロジーが先行ではなく、まずは「それを使う人を育てること」が大事だということでしょうか?限界集落の再生も含めて教えてください。
井本:はい。後は自然と共に歩み、自然を大切にするっていうことですね。今は広島県竹原市田万里町で限界集落再生をしています。2.4haの田んぼや耕作放棄地を再生させながら、地元の廃校をリノベーションして、農作物の加工所やカフェやイベントスペース、宿泊施設を作っていく活動を進行中です。そこは360人の村で、その内20代~30代は20人しかいません。
テクノロジーの活用では、The CAMPusの教授陣と乳酸菌など含めた土の開発をしています。その地域にあった微生物を活性化させる土で無肥料無農薬で農業を行う開発を進めています。出口が見える商売の設計をITを使って考えています。
手をかけた分、成長が目に見えていくのは、農業の醍醐味
岡本:「食オタ」と「食育」の関係をもう少し聞かせていただけますか?
長岡:会社を設立した時に、たまたま知り合いに「美味しいのに売れない状況」の和歌山県に梅干しの農家さんが居ました。それで、私が「もっとかっこ良くして売った方が良いんじゃない?」と提案させていただき、かっこ良いラベルを作って、3粒800円で池袋の路上で売りました。そこから今の事業が始まったんですよ。
手売りするのは結構大変だったんですけど、モノを置いておくだけじゃ売れないけれど、「そこに人が入ることによって売れる」ようになったんです。野菜ソムリエの資格をもっている人が売ると引き出しが多いので、もっと売れるようになって!
そこから引き出しのある人がサポートしていけば、もっと流通量が増えと考えて。それで、その人達の集まりを作り始め、今の「食のオタクコミュニティ」があります。
岡本:岩本さんが移住して農業をやる難しさや楽しさとは?
岩本:私も前職は化学メーカーで農業とは関係ない仕事だったので、移住してみていざパパイヤを植えた時は、「農家さんってこんなに大変なんだ」と身に染みて思いましたね。最初は苦労があったんですが、徐々に成長していく姿を見ると嬉しいんですよね。手をかけた分、成長が目に見えていく部分は、都会で荒んでいた心が洗われるというか。(会場笑い)
ライチ農家の方に畑をお借りしているんですが、その方が義理立ててくださって、自分が毎日畑に行けない時にフォローしてくださっています。まわりの方の協力があって今日もこの場に来れました。
岡本:農家の方って作物のことを子どものように扱うんですよね。最初、岩本くんがパパイヤを植えるっていった時も「自分も興味がある!」って一緒にやってくださいましたよね。
井本:今は規模でどのくらいやっているんですか?
岩本:規模は1haいかないくらい、パパイヤの数で説明すると200株いかないくらいです。今年は台風が多くて、既に3回くらい来ています。その中で生き残った貴重なパパイヤを今日は会場にもってきています(会場、歓声)
農家さんから見たITやICTなどのテクノロジーの善し悪しとは?
岡本:新富町の農家さんとお付き合いして思うんですが、カリカリした人がいないですよね。ずっと緑と一緒にやっていらっしゃる方は非常におおらかで。時間は守らないんですけどね(笑)自分自身の心も育つのはよくわかります。
今、スマート農業で自動収穫機をやっていますけど、農家さんから見たITやICTなどのテクノロジーの善し悪しはどんなところがありますか?
福山:良いところは、「自分の経営が数値で見えてくるところ」ですね。悪いところは、データばっかりに頼ると「間違った時に経験が無いと取り返しが付かないところ」です。年配の方へも自然に導入されていくのが本当のスマート農業なんだと思います。
岡本:農家の方の情報の取り方が変わったと聞いています。
福山:自分もGoogleで検索したり、YouTubeで情報発信してくださる方から助けられています。
岡本:移住してい就農するのは制度的なモノは役所が必要ですが、就農はインターネットの情報でできてしまうんですね。
井本:コミュニティの力は大きいです。The CAMPusでは、FaceTime(フェイスタイム)で教授陣に農家さんが相談することもあります。今日、個人でやって、翌日に個人でやったものが全国に展開することが可能になりました。そんな世の中では、「どんな風にメッセージを発信していくか」で反応が変わり、ファンができたら、そこでコミュニティができるようになっていますね。
長岡:インターネットのやりとりもしますが、オフラインのミーティングを定期的に入れていきます。野菜を語ろうというタイミングで、野菜を食べていないと語れないしということが根本的にあって。リアルの場を大事にしています。
岡本:行政サイドはベンダーさんに丸投げして、「夢のような感じでスマート農業を!」と思ってしまう問題があります。現状では、実地体験の面も養いながら作物自体を見る能力が人間に備わっていないとスマート農業は使えないですね。
トークセッションの盛り上がりが絶えない中、時間となり質疑応答が始まった。質疑応答では、「農業経営社マインドはどこで備えましたか?」「初期の現地規模はビジネスではどのくらいあるのと成り立つのか?」「台風が来た時に気をつけるポイントは?」「データ化した後に差別化はどうするのか?」など実際に農業参入する際に必要な質問が続いた。
農業の産業化、販売の効率化、農業で生きていくのは面白いにつながる
岡本:最後に、登壇者の方々に質問の回答と一言をお願いします。
福山:ピーマンは単価が安いので、ピーマンは単価1,000円で売れることはありません。なので量を作ってある程度の規模になると販売市場を広げていかないといけないんです。自分は「農業が産業と認められる」ように突き詰めていきたいと思います。
井本:農村で生きていく、暮らしをデザインするのは「面白い」と考えています。暮らしが豊かであるのは大事です。それプラスで「ビジネスの側面もデザインできるのが農村」だと思います。そういった意味では、成功した農家さんにアドバイスを聞かないと意味がないと思っています。
長岡:農業の産業全体を見ると、販売効率を上げていこうとサポートする人が増えてくると、一次産業はもっと盛り上がると思っています。「今みなさんがやられている職業」と「農業」をかけ算してみるともっと楽しくなるんじゃないかと思います。
岩本:パパイヤはすごく面白いと思っています。なので僕は「パパイヤを売れる物」にしていきたいと思います。
(会場拍手)
会場では、トークセッション終了後も来場者と登壇者の距離が近く、活発な意見交換が続いた。