「食べチョク」が描く新・農業ビジネスー楽しく稼げるスマート農業会議ーゲスト:食べチョク代表の秋元里奈氏
宮崎県新富町に設立されている、スマート農業推進協会の公開オンライン勉強会が開催されました。スマート農業推進協会は、全国から農業に関する知見を集結し、地方からスマート農業を推進している団体です。
日本は、農業人口の高齢化と人口減少により、農家の後継者や担い手不足が深刻化しています。今後生産者が半減していくという予想があるなか、日本の農業が稼げる産業に進化するために注目されているのがスマート農業です。
今回は、食べチョク 代表/株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長の秋元里奈氏をゲストに迎え、食材の直売EC食べチョク躍進の秘密についてお話していただきました。
内容
- 「食べチョク」躍進の秘密は?
- 農産物の流通、販売はこれからどうなる?
- 生産者の思いや物語を伝える方法とは
- 生産者と企業と自治体の組み方
- 「食べチョク」が描く農業の未来は?
<スマート農業推進協会 オンライン勉強会>
開催日時:2021年9月7日 (火)
テーマ:農業の未来が見える「スマート農業会議」
現場の実践者らの生の声が聴ける人気講座がオンライン開催
【講師紹介】※敬称
食べチョク 代表/株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長
秋元里奈
◎経歴
神奈川県相模原市の野菜農家に生まれる。 慶應義塾大学理工学部を卒業した後、2013年に株式会社ディー・エヌ・エーへ新卒入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリのマーケティング責任者に就任し合計4部署を経験。 2016年11月に農業分野の課題に直面し株式会社ビビッドガーデンを創業。2017年5月にこだわり生産者が集うオンライン直売所「食べチョク」を立ち上げる。リリース3年で認知度/利用率No.1の産直通販サイトに成長。2019年9月と2020年4月にフジテレビ系列「セブンルール」に出演。2020年4月にアジアを代表する30歳未満の30人「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出。2020年9月よりTBSの報道番組「Nスタ」の水曜レギュラーコメンテーター。オンオフ問わず365日24時間着ている「食べチョクTシャツ」がトレードマーク。初著書は『365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘』◎受賞歴
◆株式会社ビビッドガーデン(食べチョク) 受賞歴
・2017年11月:「ASAC第4期デモデイ」でオーディエンス賞
・2018年3月:第4回日本ネット経済新聞賞
・2018年10月:総務省の2018年度 異能ジェネレーションアワード
・2019年3月:KDDI ∞ Labo「MUGENLABO DAY 2019」にてオーディエンス賞
・2019年8月:「マイナビ農業アワード2019」で団体の部優秀賞
・2020年12月:「Ruby biz グランプリ 2020」でVertical Solution賞
・2021年2月:みずほ銀行主催の「Mizuho Innovation Award2020」◆秋元里奈 受賞歴
・2019年8月:Forbes JAPANの「30 UNDER 30 JAPAN 2019(日本を代表し世界を変えていく30歳未満の30人)」
・2019年10月:「EY Winning Women 2019」ファイナリスト
・2020年4月:Forbesの「Forbes 30 Under 30 Asia 2020(アジアを代表する30歳未満の30人)」
・2020年12月:「第8回Webグランプリ Web人部門」Web人賞
・2021年3月:第3回WOMAN’s VALUE AWARD 個人部門
「食べチョク」が描く新・農業ビジネス
「食べチョク」躍進の秘密は?
食べチョクは「Web版のファーマーズマーケット」。こだわりの食品を生産者から「チョク」でお届けしています。産直ECと呼ばれることもあり、農産物だけでなく肉・魚・乳製品・加工品・お酒など、幅広い商品を掲載しているマーケットプレイスです。
秋元氏のご実家は神奈川県の農家でしたが、秋元氏が中学生の時に廃業となりました。幼少期より、母親から「農業は不安定で儲からないので、継ぐな」と言われてきたということです。しかし、なぜ儲からないのか、と大人になってから疑問に思い、生産者の声を聞くことに。そこで生まれたのが食べチョクです。
通常のJAなどの既存ルートでは販売価格が固定ということもあり、生産者のこだわりが価格に反映されにくい性質があります。特に、小規模農家は利益を上げにくい環境となっているのです。食べチョクでは、消費者に直接販売するプラットフォームとなることで、この問題を解決しています。
直接売ることで生産者に消費者の生の声が届き、別のメリットも生まれました。エンドユーザーの声が直接届くので、商品のブラッシュアップやモチベーションにつながっているのです。食べチョクでは、親戚のような距離感で商品を届けることをイメージしています。
食べチョクは躍進を続け、流通額は直近1年で42倍に成長、ユーザーは50万人にも上ります。類似サービスは複数ありますが、その中でも食べチョクが国内最大のプレーヤーです。
農産物の流通、販売はこれからどうなる?
現在、農作物の直接販売市場は1,8兆円ですが、オンライン化の普及や消費者の志向の変化により、今後5兆円規模に成長すると予測されています。
この背景には、コロナの影響で消費者意識が変化したことがあります。つまり、どこから買うかを消費者自身が強く意識するようになり、食品のストーリーがより重視されるようになったのです。また、ライフスタイルの変化により、EC化があまり進んでいなかった食材分野においても、EC化が大幅に向上しました。
生産者の思いや物語を伝える方法とは
秋元氏に、食べチョクのマーケティングで重視しているポイントを教えていただきました。
一つは、サイト側の受け皿として、高速でPDCAを回す商品や福袋などのキャンペーン企画を行うこと。生産者と一緒に商品作りをしているということです。
もう一つは、リテンションとロイヤリティの観点です。食べチョクでは、LINEに力を入れており、公式LINEの友だちは10万を超えています。さらに、開封率20%を目指してメルマガも配信中です。
また、リピーター獲得のために梱包物にも工夫。生産者の思いが伝わるように、野菜の説明や美味しい食べ方なども追加し、体験設計を行っています。
効果的なマーケティングとして、テレビCMの事例も説明いただきました。食べチョクでは、まずは消費者へ興味を持ってもらうことを念頭に、テレビCMでは詳しすぎる説明はあえて省いています。そのあと、自社コンテンツで食べチョクの思いを補完しているのです。
生産者と企業と自治体の組み方
食べチョクでは、現在自治体との連携を強化しています。佐賀県や新潟県などをはじめ、すでに40件以上の地方自治体と提携しているのです。
例えば、佐賀県の場合、通常よりも詳しい丁寧な研修の実施など、出品者へのサポートを行っています。
「食べチョク」が描く農業の未来は?
今は、農家の中でも若い世代が食べチョクを利用している傾向にありますが、今後はもっと幅広い世代に利用してもらいたいと秋元氏は話します。そこで始めたのが「ご近所出品」という制度。これは、生産者がご近所さんと共同で出品するサービスで、すでに食べチョクを有効活用している農家が、近所の人も誘って一つの商品として発送することができるというものです。この結果、94歳の生産者さんが登録してくれた事例にもつながりました。
また、生産者の学び合いの場として「食べチョク学校」をオンライン開講。ここでは、出品者となる農家同士がノウハウを共有したり、交流会を定期的に実施したりしています。
秋元氏には、一次産業を盛り上げたいという強い思いがあります。そこで、食べチョクだけではできない一次産業の啓蒙活動として、「一次産業みらいラボ」を設立。ここでは、月額398円の会員制コミュニティをつくり、一次産業への貢献をしているのです。
質疑応答コーナー
イベントの最後には、高橋から秋元氏にリスナーからの様々な質問をぶつけてみました。
高橋:農家にとってマーケティングがどの程度大事なのか、意識していないことが多いと感じています。食べチョクがマーケティングに力を入れることになったきっかけというものはありますか?
秋元:前職でマーケティングを行っていました。そのときに基礎が重要だと感じ、食べチョクでは創業時からマーケティングを重視しています。
高橋:マーケティングは食べチョクの文化とも言えますね。リスナーの方から「養蜂家としてスタートしたが、どのようにマーケティングアピールしたらいいのかわからない」という質問が届いています。
秋元:離島で新規営農したということで、そのストーリーが視覚的に伝わるような素敵な写真がいいのではないでしょうか?
高橋:農家の中にはECについてよく知らないという方も多くいらっしゃいます。初心者がECを始める際のポイントやアドバイスはありますか?
秋元:食べチョクでは、毎週のように個別相談会をしています。また、代理にライティングをすることも可能です。ECに不慣れな場合には、そのようなサービスを是非活用してほしいですね。
高橋:特に珍しい農作物を作っているわけではない場合などに、EC直売で差別化するためのポイントはありますか?
秋元:実は、全員が差別化をしなければならないということではありません。むしろ、リピーターの獲得を目指すのが重要です。見た目の派手さで差別化をするのではなく、オーダーしてくれた消費者さんに次も注文してもらえるような丁寧な働きかけが効果的だと言えます。
高橋:マーケティングの基本は単純なので、理解できる人は多いと思いますが、実際にはうまく行かないことも多い。その原因はどこにあるのでしょうか?
秋元:重要なのはしっかりやりきること。一つのストーリーに則って、マーケティングをしっかりと実践することが大切です。
高橋:食べチョクとして、あるいは秋元さん自身としての、今後の展望について教えてください。
秋元:農業に興味がある人よりも、食に興味のある人の方が圧倒的に多いです。そこで、食べチョク学校などを通して、農業に限定するのではなく、食という広い目線での働きかけを強めていきたいですね。
すでに様々なこだわりを持った農家さんはいるので、そこにEC直売という新しい刺激をいれて、良い化学反応になればと思っています。
食はインフラとして絶対必要なものです。また、目に見えていない価値もたくさんあると感じています。私自身のイメージでは、伸びしろのある分野であり、一生かけてもやりきれるかわからないほどです。
高橋:農業に対して悲観的な見方が多い中で、秋元さんは前向きに捉えられているんですね。農業課題を解決するためのヒントはどこにあると考えられていますか?
秋元:情報をキャッチアップして、柔軟に行動する必要があります。そのためにも、半歩先を見ることが大切ですね。
農業の問題解決のために、農業の枠に留まるのではなく、あえてファッションなど異業種からヒントを得ると、解決に向けた着想が出るのではないでしょうか?
高橋:今後、農業にはどのような未来が待っていると思いますか?
秋元:大型農家と小型農家に二極化していくと感じています。安定して安く買いたい人もいれば、自分自身が大切にしたいことに応じて、何をどこからにこだわって買いたい人もいるでしょう。どちらが良い悪いという話ではありません。
需要の二極化がある中で、私としては小型農家を支援していけるような取り組みを続けたいですね。