お知らせ

スマート農業推進協会からのお知らせ

農業課題を解決する方法ー楽しく稼げるスマート農業会議ーゲスト:弘前大学農学生命科学部教授の張 樹槐氏

宮崎県新富町に設立されている、スマート農業推進協会の公開オンライン勉強会が開催されました。スマート農業推進協会は、全国から農業に関する知見を集結し、地方からスマート農業を推進している団体です。

日本は、農業人口の高齢化と人口減少により、農家の後継者や担い手不足が深刻化しています。今後生産者が半減していくという予想があるなか、日本の農業が稼げる産業に進化するために注目されているのがスマート農業です。

今回は、弘前大学 農学生命科学部 張 樹槐教授をゲストに迎え、農業課題とその課題を解決するための足がかりとなる実験内容についてお話していただきました。

内容

  • 近年における農産物の傾向と課題
  • 課題解決のヒントは「知恵」と「勘」の可視化
  • IoT技術を使った質量と糖度の実験

<スマート農業推進協会 オンライン勉強会>
開催日時:2021年12月14日 (火)
テーマ:最先端のテクノロジーを学ぶ「スマート農業会議」
現場の実践者らの生の声が聴ける人気講座がオンライン開催

【講師紹介】※敬称略

弘前大学農学生命科学部 教授
張 樹槐(チャン シューファイ)

1984年中国の吉林工業大学農業機械学部(現在:吉林大学)卒業。1985年第4期の中国政府派遣留学生として北海道大学農学部へ、1991年同大学院博士課程修了。農学博士。㈱小松製作所、㈱ニッコー勤務を経て、1994年弘前大学農学部助手、2003年助教授、 2010年より教授。また、2004年より岩手大学大学院連合農学研究科主指導教員も兼任。専門は農業機械学。博士論文のテーマは“農用連結車両の操安性向上に関する基礎研究”で、弘前大学に赴任後、リンゴ収穫ロボット、エダマメ選別機、分光計測などによる農産物の非破壊計測技術などの開発研究、近年低コストIoT機器のスマート農業への応用研究に従事。現在科研費の研究代表者として”光センシングに基づく非破壊的計測技術のスマート農業への応用研究“に取り組んでいる。

農業課題を解決する方法

近年における農産物の傾向と課題

農産物を作るにあたって、売れるようにするために「他のところと差別化したい」と思うのは当然のことです。そして、売れ行きが良く豊かになってくると輸出も盛んに行われるようになり、もっと売れるようにと高品質化も進んでいきます。

最近では高品質化に加え、様々な機能性を兼ね備えた農産物の需要が高まっており、それに関わる技術として品種改良や収穫前の農業生産技術、貯蔵、選別があります。張氏自身、約20年以上前から農産物を収穫したあとに色や糖度による選別をしていましたが、「この前段階である収穫前から何とかできないか?」と思い、研究を始めました。

おいしい農産物を作るには、品種の選定や栽培技術の向上はもちろん、農家の努力も大切と言えます。しかし、同じような土地で同じように栽培しても、おいしく作れる農家とそうでない農家があるのが実情です。その違いは何かというと、農家の「知恵」と「勘」の有無であり、農業においては特に重要となります。

課題解決のヒントは「知恵」と「勘」の可視化

同じような環境や技術、努力をしても、良い農産物が作れない農家が出てきてしまう。その課題を解決するには、農業において重要となる「知恵」や「勘」を可視化すればいいと張氏は考えました。可視化とは、「知恵」や「勘」といった経験値が物を言う感覚的なものを、数値などで目に見えるようにするということです。そうすれば、様々な農産物に応用が可能となり、農業経験が少ない農家でもおいしい農産物を作ることができます。

IoT技術を使った質量と糖度の実験

張氏は「知恵」や「勘」の可視化をするために、IoT技術を使ったメロンの収穫適期を予測する実験を行いました。

1)メロンの質量変化
張氏は計測装置をメロンに取り付けて、どのようにメロンが生長しているのか、24時間計測することを約2ヶ月間続けました。メロンの質量変化を計測することで、収穫に適した大きさなどがわかります。
実験の結果、メロンは昼間に少しずつ成長し、収穫時期に近づくとあまり成長しなくなることがわかりました。

2)メロンの糖度変化
この実験でも張氏は計測装置をメロンに取り付け、糖度がどのように変化しているのか、24時間計測することを約1ヶ月間続けました。同時に、日照についてもデータを取り、気温や天気が糖度に関係するのかも実験しています。
その結果、メロンは成長と共に少しずつ糖度が上昇し、一日のうちでは昼間に糖度が高くなることがわかりました。また、気温の低いときや天気が悪い日は、昼間でもあまり糖度は高くなりませんでした。

2つの実験結果から、重さが減ると糖度が上がるということが判明したのです。重さが減るといっても、呼吸により水分が抜けるため若干軽くなる程度。張氏は「水分が抜けることで相対的に糖度が上がったのではないか」という仮説を立てており、現在も実験を継続しています。

この仮説が確かなものとなれば、将来的には重さを量ることによって収穫に適した大きさや、一日のうちにどのタイミングで収穫するべきかがわかるようになるのではないか、と考えているそうです。

パネルディスカッション

イベントの最後には、農業ロボットベンチャーAGRIST取締役COO兼人事・組織開発責任者の高橋慶彦氏をお迎えし、パネルディスカッションが行われました。

こゆ財団/高橋:今はローコストで有能なセンサーなどがあり、様々なデバイスが使われています。技術革新のスピードは倍々で加速しているような印象があるのですが、先生はこの変化を実感していますか? 

:それはすごく感じています。一番重要なのはセンサーで、昔は高価だったのですが、今はとても安くなっていますね。ただ、精度が悪いので、工夫が必要です。AIに関しても、アルゴリズム的にいろんなことができるようになった部分が進歩したなと思います。 

こゆ財団/高橋:AGRISTは今後、ロボットだけでなく農場も運営するということですが、解決したい課題というのはありますか? 

AGRIST/高橋:一番は「収穫ロボットが世の中の当たり前ではない」ということですかね。収穫ロボットは、ペンやはさみ、トラクター、コンバインといった物のように「あって当たり前」「使うのが当たり前」というレベルには、まだなってないんです。

先駆的に考えている方や、人手不足という現状や課題に危機感を持っている方は収穫ロボットに可能性を感じ、契約してくれます。しかし、多くの方は誰かが使って成功しているのを見て「いいな」と思い、初めて購入や契約に繋がるのです。

そこで、自分達で農業法人を設立し、AIと収穫ロボットを実際に活用することで証明する、という手段を取ろうと思っています。様々な企業様にも協力してほしいので、声をかけているところです。  

こゆ財団/高橋:使うことが当たり前になるまでの道のりに、一体何が必要なのでしょうか。AGRISTの高橋さんは「事例を作って証明する」ということを仰いましたが、他に何ができると思いますか?

:収穫ロボットの話はすごくいいことだと思いますが、厳しいことを言えば、収穫だけが生産性を上げるということではないのです。収穫しながら他の情報も収集し、その情報を自分で判断する。または、自分で判断できない場合、収集した情報を農家に提供して判断してもらい、次の作業に移る。これが大事ではないかと思います。 

AGRIST/高橋:収穫ロボット自体が収穫量を上げるというよりは、農家が本来やりたかった部分のサポートをロボットが担っていくということが重要なポイントだと思っています。そして、サポートすることで農家自身が収穫量を上げていく。

農薬散布なども「時間がかかり非常に大変だ」という農家の声もあるので、ロボットやワイヤーを使って自動で散布できれば、それだけでも導入するメリットがあるのではないかと思います。

こゆ財団/高橋:張先生のチャレンジも含めて、今後どんな未来を描かれますか?

:研究もそうですが、人材を育てて最終的には社会実装していく、というのが最終目標です。農家が少しでもラクできるように、社会全体としてそれが持続できるように努力していきます。

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