農業課題を解決する方法ー楽しく稼げるスマート農業会議ーゲスト:マイファームの西辻一真氏
宮崎県新富町に設立されている、スマート農業推進協会の公開オンライン勉強会が開催されました。スマート農業推進協会は、全国から農業に関する知見を集結し、地方からスマート農業を推進している団体です。
日本は、農業人口の高齢化と人口減少により、農家の後継者や担い手不足が深刻化しています。今後生産者が半減していくという予想があるなか、日本の農業が稼げる産業に進化するために注目されているのがスマート農業です。
今回は、株式会社マイファーム 代表取締役社長 西辻一真氏をゲストに迎え、自産自消ができる社会や、日本農業の今後の方向性についてお話していただきました。
内容
- 農ある暮らしは世の中を良くする
- 自産自消ができる社会
- 日本農業の今後の方向性
<スマート農業推進協会 オンライン勉強会>
開催日時:2021年11月9日 (火)
テーマ:最先端のテクノロジーを学ぶ「スマート農業会議」
現場の実践者らの生の声が聴ける人気講座がオンライン開催
【講師紹介】※敬称略
株式会社マイファーム 代表取締役社長
西辻 一真
1982年福井県生まれ、2006年京都大学農学部資源生物科学科卒業。
大学を卒業後、1年間の社会人経験を経て、幼少期に福井で見た休耕地をなんとかしたい!
という思いから、「自産自消」 の理念を掲げて株式会社マイファームを設立。
その後、体験農園、農業学校、流通販売、農家レストラン、農産物生産など、独自の観点から農業の多面性を活かした種々の事業を立ち上げる。
2010年、戦後最年少で農林水産省政策審議委員に就任。
2016年、総務省「ふるさとづくり大賞」優秀賞受賞。
2020年より東京農業大学大学院在学。
将来の夢は世界中の人が農業(土に触っていること) をしている社会を創ること。
農ある暮らしは世の中を良くする
西辻氏は「農ある暮らしを生活の中に溶け込ませることで、良い世の中になっていくのではないか」と考え、農業ベンチャーでありながら、生活者の方たちが身近に感じる部分での農業開拓に日々尽力しています。昔から「良いものを作れば買ってくれる」と言われていますが、生活者の方たちがもっと「農」に理解を持ち、自然を愛するようになることも大切です。
最近では、コロナの影響で外食する機会が減り、自宅で家族と食事をする人が増えました。自宅で料理をする機会が増えると自然と食材にもこだわるようになり、身体にいいものを食べようとします。そして、普段より家族との会話も増え、目の前の食事にも集中するようになるのです。
「これまで”農家は農家”、”食べる人は食べる人”と分担が行われてきた」と西辻氏は言います。しかし、農家も生活者の一人であり、生活者も自然に触れることができれば「農」に近い人なのではないでしょうか。ここでいう「自然に触れる」というのは、「食べる」ということです。西辻氏は「農家と生活者の境目がなくなっていけばいいなと思って活動している」と仰っていました。
自産自消ができる社会
西辻氏が経営する会社では「自産自消ができる社会」というのを大事にしており、以下の4つに集約されます。
①自然と触れる「楽しさ」や「面白さ」
②自然と共に生き、それを「仕事にする素晴らしさ」
③その産物をまるごと食べ、自然について「会話」し、「感謝」すること
④人が作物を育てるように、人も自然に育てられていること
農業をしていると、楽しいことや面白いことよりも、自然の脅威を感じることの方が多いと思います。この脅威ばかり感じていると、辛さや大変だという思いばかりに注目しがちです。しかし、元々感じていた自然と触れ合う楽しさや面白さを忘れないようにすることが大切だと思っています。
そして、生活者の方、農家も同じように農作物についての会話を共有し、感謝をすること。農作物や自然に育てられているというのを忘れないことが大事だ、と西辻氏は語っていました。
日本農業の今後の方向性
日本では、栽培面積の小ささや環境、法律の規制により、「胃袋を満たすため」といった理由で大量生産をするという農業は難しいです。では、日本農業はどこに向かっていけばいいのでしょうか。「胃袋を満たしにいくところから、心と身体を満たす農業へ転換しなければならない」と西辻氏は言います。
スマート農業が発展し、生産性が上がることで空いた時間ができた場合、その時間を顧客のために有効活用できるかどうかが大事な分岐点になります。空いた時間を使って一人でも多くの顧客と会話することで、胃袋を満たす農業から心と身体を満たす農業へと変わっていくのではないでしょうか。このことから、農業教育や新規就農者に「顧客のために空いた時間を有効活用する」という考え方を、最初から刷り込んでおくことが大事だと言えます。
そして、スマート農業を取り入れるにあたって、電気を活用することもカギです。電気のインフラとなる「ソーラーシェアリング」で発電した電気を活用すれば、露地や中山間地での農業も電化することができます。
パネルディスカッション
イベントの最後には、農業ロボットベンチャーAGRIST取締役COO兼人事・組織開発責任者の高橋慶彦氏をお迎えし、パネルディスカッションが行われました。
こゆ財団/高橋:AGRISTの活動動画を見ていただいて、西辻さんはどう感じられましたか?
西辻:めちゃくちゃすごいです!「夜も稼働できます」という部分に、とても共感しましたね。人間が労働できない時間を活用しているというのは、さらに凄みがあるなと思いました。
こゆ財団/高橋:ハウスで栽培している野菜を全部ロボットが自動で収穫してくれるイメージがまだまだある一方で、現場はそうじゃなかったというところが今に繋がっているんですよね?
AGRIST/高橋:そうですね。ある農家が「寝ている間に1列終わってるだけで全然違う」と言っていて、それが僕たちの開発にも影響しています。今まで存在しえなかった部分において収穫ロボットという新たな価値を生み出すことで、農家がやっと導入できる、一歩踏み出せるという感覚です。
西辻:すごくわかります!いろんなところから「スマート農業が出てきたら、農家の仕事奪うんですか?」って言われるんですよ。そうではなくて、すごく優秀なパートさんが寝てる間に補完してくれる、という考え方のほうがわかりやすいのでは?と思うんです。
こゆ財団/高橋:「日本の農業において、実は技術力って下がっているんですよ。」という言葉がかなり印象的でしたが、なぜ農業の現場では技術力が下がっているのでしょうか?
西辻:前提として、技術というのは時代に応じてアップデートするはずです。良くも悪くも、日本には教科書的に同じやり方をずっと続けてきた経緯があります。アップデートしようというマインドがなかったり、アップデートさせるための中間組織がなかったり…。教科書に載っていない「おじいちゃんの秘訣」みたいなのがあるんですが、それが文書化されず、伝承されないせいでなくなってしまったんです。
こゆ財団/高橋:「農の日常化」ということでお話をお聞きしてきましたが、今後、農業の現場はどのようになっていくと思いますか?
西辻:これからの農業の現場は、「胃袋を満たすだけでなく心も身体も満たすんだ」という考え方で時間を有効活用し、顧客との接点を増やすというのが、これからの農業者の未来だと思います。生活者にとって農業者が身近な存在となり、自然から気づかされる多くのことが普段の生活にも活かされていくのではないでしょうか。