アフターコロナ時代の地域未来創造のシナリオー楽しく稼げるスマート農業会議ーゲスト:野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)の石井 良一氏
宮崎県新富町に設立されている、スマート農業推進協会の公開オンライン勉強会が開催されました。スマート農業推進協会は、全国から農業に関する知見を集結し、地方からスマート農業を推進している団体です。
日本は、農業人口の高齢化と減少により、農家の後継者や担い手不足が深刻化しています。今後、生産者が半減していくという予想があるなか、日本の農業が稼げる産業に進化するために注目されているのがスマート農業です。
今回は、野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)の石井 良一氏をゲストに迎え、農業の変化を先取りし、 地域主導で新しい試みを行うことの重要性をお話しいただきました。
コロナ禍で人々の暮らしや働き方は大きく変わり、都市や地域のあり方は大きな影響を受けています。一方で、こうした構造変化は新しいビジネスが生まれるチャンスでもあるのです。持続可能な地域の重要な産業は農業、食産業であるという視点から、地域の未来を一緒に考えていきます。
内容
- コロナ禍における暮らしや働き方の変化
- 農業の構造変化、成長産業化
- フード&アグリビジネスによる地域活性化
- フード&アグリビジネス未来地域を目指して
<スマート農業推進協会 オンライン勉強会>
開催日時:2021年10月12日 (火)
テーマ:最先端のテクノロジーを学ぶ「スマート農業会議」
現場の実践者らの生の声が聴ける人気講座がオンライン開催
【講師紹介】※敬称
野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)シニアフェロー
滋賀大学名誉教授
石井 良一
早稲田大学理工学大学院修士修了。ペンシルバニア大学都市計画大学院Ph.D。
(株)野村総合研究所にて国土、都市計画、行財政改革、産業政策、野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)にて、農業、アグリビジネスに関するコンサルティング業務に従事。2003年4月より滋賀大学客員教授(非常勤)、2012年4月より滋賀大学教授を経て、2021年4月より滋賀大学名誉教授、野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)シニアフェローに就任。
専門は都市計画、地域経済政策。技術士(都市および地方計画)、一級建築士、農業経営アドバイザー(日本政策金融公庫)、総務省地域力創造アドバイザー。
主な著書として、「パブリックサポートサービス市場ナビゲーター」(共著)2008年4月、東洋経済新報社、「自治体の事業仕分け-進め方・活かし方-」(共著)2011年6月、学陽書房、「アフターコロナの都市計画」2021年3月、学芸出版社
アフターコロナ時代の地域未来創造のシナリオ
コロナ禍における暮らしや働き方の変化
一年半以上にわたり新型コロナウイルス感染症と共存してきましたが、この生活はこれからも暫く続く見込みです。この生活の中で、個を守りながらICTを活用する新標準としてテレワークが定着し、毎日のオフィス通勤や対面会議、訪問営業、接待から開放されています。
その結果、東京本支社が縮小し、郊外や地方のサテライトオフィスが拡充の流れとなっているのです。また、実店舗の減少が加速化しており、コロナ禍の2020年11月には約2,400億円が実店舗からネットショッピングへ移動したという試算もあります。
高家賃・高密・高感染の可能性がある大都市からの脱出と、在宅勤務やITスキルを活用した地方部でのワークスタイルが可能になったことで、地方へ移り住む若い世代が増えています。また、移住まではいかなくとも、ワークライフを融合したツーリズムが今後拡充し、地方へのワーケーションやウェルネスツーリズムが活発になることでしょう。
石井氏によると、自給自足的ライフスタイルへの希求もあり、これらも生産者や農業を知るきっかけにも繋がっているということです。
農業の構造変化、成長産業化
石井氏は、農業自体も歴史的な転換点を迎えていると強調します。ここで重要なのは、フードバリューチェーンの中で農業を考えること。生産価値よりも、加工・流通・消費の段階のほうが付加価値が高くなることを念頭に、農家は利益を上げる方策を考える必要があるのです。
農業の担い手が減少しているなかで、農業生産額は増加基調にあることは意外な事実です。この背景には、大規模農業法人の存在があります。フードアグリテックが浸透していることや加工、業務用野菜のニーズ拡大に伴う国産化への期待も高く、農業は成長産業だという見方もできるのです。
特に注目したいのは、フードバリューチェーン企業です。これは、生産・加工・流通・消費(販売)全体をカバーする経営体のことで、年間安定調達や全国での周年供給、トレーサビリティによる信頼の獲得など、様々なメリットがあります。
現在、フードバリューチェーン企業が増えており、石井氏にいくつか事例を紹介していただきました。
イオンアグリ創造(株)は、全国で直営20箇所、約350ヘクタールの農場を経営しています。自社物流拠点に集荷し、24時間以内に店舗に届けられるスピード感が特徴です。
(有)ワールドファームは、農場のすぐ横に加工工場を持っています。業務用の野菜やカット野菜、冷凍野菜に特化したフードバリューチェーン企業です。
その他、ねぎの商社として全国でビジネスを展開すること京都(株)や、コンビニのサンドイッチやサラダ向けに植物工場を全国展開するバイテックベジタブルファクトリー(株)、さつまいもの海外輸出に注力する㈱くしまアオイファームの紹介もありました。
フード&アグリビジネスによる地域活性化
農水省が発表した、みどりの食料システム戦略に注目が集まっています。この戦略では、有機農業の取り組みを25%に向上させる目標を掲げており、日本での有機農業はまだ数%であることを考えると、減農薬での大規模生産が今後の鍵になるだろうと石井氏は話します。
これまでの自治体の農業政策は、農家の維持や農家の生産額減少の回避など「食い止める」概念でした。今後は、異業種からの農業参入や大規模法人、新規就農者の支援など「創り出す、伸ばす」方向にシフトする必要があるのです。この点でも、農業をフードバリューチェーン全体で考えることが重要となります。
フード&アグリビジネス未来地域を目指して
今のスマート農業は、技術がいろいろ出ているものの、使い手がいない状況です。この課題を解決する方策として、石井氏は具体的なプロジェクトプランに次のものを提案します。
- 品目別地域ぐるみのフード&アグリ会社のプロジェクト
- オーガニックライフタウンプロジェクト
- 田園スマートエネルギー会社プロジェクト
- フード&アグリテック研究実証タウンプロジェクト
- フード&アグリビジネス土地利用計画管理制度
これは、新富町のまちづくりにも非常に参考になるお話でした。
トークセッション
イベントの最後には、農業用収穫ロボットの開発を手がけるAGRIST株式会社発の農業法人「AGRIST FARM株式会社」代表取締役 山口孝司 氏もお迎えし、トークセッションを行いました。
最初に、山口氏からAGRISTのロボット開発と収穫支援について紹介がありました。
山口:収穫ロボットの導入障壁として、ある程度大規模なピーマン農家でないとロボットがペイしないという課題があります。
石井:大規模農業法人や、今後ビジネスを拡大したい経営者への訴求が重要ではないでしょうか。そして、経営者から導入したいと話が来るのを待つのではなく、AGRIST自身から経営者へアピールすると効果的だと感じます。
山口:実は最近、自分たち自身が農業法人としてピーマン栽培を始めました。そこでは、ピーマンの周年栽培と収穫ロボットの活用を実践し、誰でも(新規就農者でも)農業で利益を上げられる環境づくりを目指しています。
石井:おっしゃる通り、素人がビジネスを始めても、1年目から収益を上げられる経営基盤の整備は非常に重要ですね。
高橋:新規就農の考え方が今後大きく変わるような可能性を感じます。スマート農業やアグリテックはやはり大規模ではないと難しい印象がありますが、小規模農家ができることは何かありますか?
石井:AGRISTなどの開発者自身が、無料試用期間や使い方の説明会を積極的に行うなどして、農家への導入障壁をなくす取り組みが一層必要だと考えます。短期的には開発者側の負担になりますが、中長期的に見ると、農家への導入が拡大してメリットが大きくなるでしょう。
山口:まずは見ていただく、そして認知を高めることですね。今後、農業ロボットが農業の当たり前になることを目指しています。問い合わせの増加など、収穫ロボットへのニーズの高まりを実感しているので、実際に農家さんに使ってもらえるロボットを開発していきたいという気持ちです。
高橋:本日は、新富町に対する具体的なプロジェクト提案もしていただき、非常に実りある時間でした。
石井:新富町においては農業だけではなく、オーガニックやサーフィンなど、生活の質に直結する様々な側面からブランディングして、まちづくりを考えていただけたらと期待しています。