農業課題を解決する方法ー楽しく稼げるスマート農業会議ーゲスト:(株)オプティムアグリ・みちのくの速水 一仁氏
宮崎県新富町に設立されている、スマート農業推進協会の公開オンライン勉強会が開催されました。スマート農業推進協会は、全国から農業に関する知見を集結し、地方からスマート農業を推進している団体です。
日本は、農業人口の高齢化と人口減少により、農家の後継者や担い手不足が深刻化しています。今後生産者が半減していくという予想があるなか、日本の農業が稼げる産業に進化するために注目されているのがスマート農業です。
今回は、株式会社オプティム ビジネス統括本部マネージャー 兼株式会社オプティムアグリ・みちのく代表取締役の速水一仁氏をゲストに迎え、ドローンによるピンポイント農薬散布やスマート農業の技術を転用した「スマート米」についてお話していただきました。
内容
- 「ピンポイント農薬散布テクノロジー」とは
- SDGs×スマート農業
- 地域企業との連携
<スマート農業推進協会 オンライン勉強会>
開催日時:2022年2月11日 (金)
テーマ:最先端のテクノロジーを学ぶ「スマート農業会議」
現場の実践者らの生の声が聴ける人気講座がオンライン開催
【講師紹介】※敬称略
株式会社オプティム ビジネス統括本部 マネージャー 兼
株式会社オプティムアグリ・みちのく 代表取締役
速水 一仁
大阪府生まれ。オーストラリア国立グリフィス大学 マーケティング学部卒業。中国(上海)と台湾で新規事業の立ち上げに携わった後、2016年に株式会社オプティムに中途入社し、ビジネス統括本部にてAI・IoT・ロボット技術を活用したスマート農業事業を担当。2018年にマネージャーに昇進。2019年にオプティムの初の子会社となる株式会社オプティムアグリ・みちのくの立上げに参画し、同社の代表取締役に就任。
「ピンポイント農薬散布テクノロジー」とは
速水氏が代表を務める株式会社オプティムアグリ ・みちのくが提供している技術とは、「ピンポイント農薬散布テクノロジー」というものです。空撮用の小さなドローンを畑に飛ばし、そのドローンが撮影してきた画像をAIが解析。 農家が目で見て「害虫に葉が食べられている」「害虫がいる」と判断するように、判断基準を覚え込ませたAIが自動判別する仕組みです。これにより、早期に害虫を検知して、必要な場所にだけ農薬を散布することができます。
これまでは、害虫がいようがいまいが関係なく、全面に農薬を散布して害虫が寄り付かないようにする散布方法でした。しかし、「ピンポイント農薬散布テクノロジー」を活用すれば、必要なところにだけ農薬を散布できます。「全く害虫がいないのであれば農薬を撒かなくてもいいので、無農薬のお米を作ることが実現可能となるのです」と速水氏は話していました。
「ドローンの操縦は難しそう…」と思うかもしれませんが、オプティムアグリ ・みちのくが提供するドローンは、ボタン一つで農薬を散布して帰ってくる「自動操縦型のドローン」です。最初に設定しておけば、毎回手動で操縦する必要はありません。また、特殊なアタッチメントも石川県と共同開発していて、そのアタッチメントを取り付けることで、ドローンから直接種を蒔く「直播」も可能となるそうです。「条」で植えなければならないお米も、アタッチメントを装着すれば条で打ち込むことができるので、農家にとっては農薬散布以外にも、植え付け作業時間や労力の軽減に繋がるのではないでしょうか。
SDGs×スマート農業
株式会社オプティムアグリ ・みちのくは、スマート農業の技術をお米に転用し、農家と共に「スマート米」という新商品の開発に取り組んでいるそうです。
このスマート米は、上述した「ピンポイント農薬散布テクノロジー」をはじめとしたIoTを活用して栽培された農作物なので、農薬の使用量が極力抑えられています。農薬を必要以上に使わずに栽培したお米なので、農薬が土壌や作物の中に多く残っているか調べる「残留農薬検査」でも不検出が取れ、安心安全で高付加価値がついた減農薬農作物と言えるのです。
近年、ESGやSDGsという考え方が広まっていますが、「ピンポイントで農薬を散布し可能な限り使用量を減らす」「必要な分だけ使う」という点が、ESGやSDGsのテーマと合致しています。
お米以外にも、りんごや果樹に対してスマート農業の技術を使った取り組みをしており、気象データや土壌・葉ぬれセンサーを使用した、さまざまな技術の実証実験などをしているそうです。
地域企業との連携
株式会社オプティムアグリ ・みちのくは、積極的に地域企業との連携にも取り組んでいます。
スマート米以外にも「スマート大豆」を作っており、スマート農業の技術を使って栽培をするだけでなく、地域の企業と連携して納豆を作り、販売するところまでを実験的にしているそうです。
他にも「親子での農業研修」を開催し、ドローンの操縦体験や現地の農家協力のもと、講演などをしています。「実際に目で見て触れることで、”農業にも新しい技術が使われているんだ”、”こんな技術を使っている農家ってかっこいい!”と意識し始めた、という声もあるんです」と速水氏は嬉しそうに話していました。
パネルディスカッション
イベントの最後には、農業ロボットベンチャーAGRIST取締役・最高技術責任者の秦 裕貴氏をお迎えし、パネルディスカッションが行われました。
高橋:農業における担い手不足や高齢化など、いわゆる生産現場の課題と向き合い、それをテクノロジーで何とか解決できればという思いで取り組みをしていらっしゃると思うのですが、AGRISTにはどのようなイメージをお持ちですか ?
速水:収穫の技術が面白いと思っています。ピーマン以外の作物にも転用できたり、他にやりようなどはあるのでしょうか?
秦:今はピーマンに集中しているのですが、他にもきゅうりやナス、トマトなどの作物に転用できればと考えています。
高橋:農業現場の課題解決に取り組んでからは、具合的にどういうことが思った以上に大変でしたか?
秦:吊り下げ式の収穫ロボットにとって、ロボティクスのセオリーからいくと、自分自身が不安定な中で対象物を取りに行くというのは技術的に難しいんです。しかし、何とか工夫してクリアできました 。もう1つは、どこをターゲットにするか、自分たちのプロダクトをどこの範囲まで対応できるようにするのか、絞り込みが難しいですね。同じピーマン農家でも、農作業のやり方や農業に対する価値観というか、経営方針が違うんです。
速水:私は、ハードウェアとソフトウェア、それぞれ持った感触が違うなと思いました。今回ご紹介したドローンは、どちらかというとハードウェアですね 。思った以上に、農家の方々はトラクターやコンバインといった農機具で操作することに慣れているなと。逆に、専門用語や細かな説明書といったソフトウェアの方でハードルが高く感じられるんだなと思いました。
高橋:速水さんのお話のなかでドローンの自動操縦というお話がありましたが、分身ロボットカフェのようなやり方は農業にもできるのではないかと思います。この辺りの可能性の部分 や活用方法など、お聞きしたいです。
秦:AIでは判断できないようなピーマンのなり方などが、まだまだあります。そういったことをカバーするという意味で、人の判断軸を入れて収穫するということをやりたいです。遠隔操縦で収穫する収穫ロボットの性能にくわえ、人の判断を機械が覚え、次からは自動で判断した上で収穫が可能になるといったこともあるかなと思います。
速水:5Gの環境が普及したら、パットをドローンにつけるなどして、もっと気軽に畑の様子が見られるようになるのではないでしょうか。そうすれば、消費者の方も口にいれる作物をよりこだわりたいと思うようになり、農家も自分の作っている作物をよりこだわりたい、より知りたいと思うのではないかと考えます。