お知らせ

スマート農業推進協会からのお知らせ

ロボティクスも出口戦略も、 スマート農業の未来は「人財」にあり

野菜の収穫ロボットを開発・実装する『株式会社AGRIST』の高橋慶彦氏、産直野菜の食品Eコマースを運営するなど農業の出口戦略に取り組む『株式会社ヴァカボ』の長岡康生氏。一般的に「スマート農業」は無機質に捉えられがちですが、農業課題の解決にそれぞれの分野で関わる2人に共通する重要なポイントは、意外にも人間味あふれる人と人とのつながりの部分にありました。

オンライントークイベント「儲かる!スマート農業TALKS」
5月20日(水)19:00〜21:00

<パネリスト>
高橋慶彦氏(株式会社AGRIST 取締役COO)
株式会社AGRIST

長岡康生氏(株式会社ヴァカボ 代表取締役)
株式会社ヴァカボ
クチコミ産直通販サイト「OTAma/おたま」

 

ゲスト紹介

農家とともに持続可能な農業を目指して
■株式会社AGRIST

▲株式会社AGRIST 取締役COO 高橋 慶彦 氏

「農業を持続させていくには収穫ロボットが必要」。宮崎県新富町の農家さんたちの切望する声を受け、ピーマンの収穫ロボット開発に取り組んだAGRIST。ピーマン圃場のすぐそばにラボを構え、農家さんの要望を直接聞き形にしてはフィードバックを受けるという高速PDCAを繰り返し、プロトタイプから半年で実証実験に成功しました。

新富町は圃場が近く、町や農家さんがスマート農業に積極的な好環境。宮崎県や宮崎大学、都城高専などと産官学の連携も図りながら、農業の効率化に向けた動きを地域全体で加速させていることもAGRISTの大きな特長です。

ピーマンの次は、キュウリ、トマトの収穫ロボットに取り組む予定。またJXTGホールディングスとの提携協定も結び、産業の枠を超えた連携も始まっています。

スマート農業の出口戦略へアイデアを集結
■株式会社ヴァカボ

▲株式会社ヴァカボ 代表取締役 長岡 康生 氏

長年広告宣伝業界にいた長岡氏が、独立して6年前に設立した『ヴァカボ』。AGRISTが技術で農業に貢献するのに対して、農家さんが苦手とする宣伝面の課題解決に着手しました。食に関するスキルや豊富な知識をもつ女性たち“食オタ※”の力を活用し、商品に付加価値を加えることに成功し、食オタの中から選抜された食育講師による「食育マルシェ」は、都市部のオフィスで人気となりました。

※“食オタ”=「食のオタク」からのヴァカボ独自の造語。ヴァカボの事業で活躍する、食に関するスキルや豊富な知識をもつ女性たち

▲企業の福利厚生として開催された「食育マルシェ」

その一方、EC化率が低いとされる食品Eコマースも開拓。2020年4月にβ版をローンチしたクチコミ産直通販サイト「OTAma/おたま」は、野菜・食品のストーリーを接点に消費者が野菜を購入できる食品ECサイトです。アフィリエイト機能を付けることで、野菜を紹介する食オタの女性たちの活動意欲も掻き立てるシステムです。

これらの事業は、オフラインで野菜の単価をアップさせつつ、オンラインで販売数量をアップさせることで、出口効果の最大化を図るという独自の出口戦略となっています。

<パネリストへ参加者からチャット質問>

お二人の事業紹介を聞き、オンライン参加者が続々とチャットで質問。それに対して、スマート農業に携わるそれぞれの立場からお答えいただきました。
Q.収穫ロボットを開発する上で、技術的な課題はありますか?

高橋氏:課題はありますが、私たちは常に農家さんと一緒にPDCAを繰り返すことで乗り越えています。解決できない課題はない、と弊社エンジニアは自信をもっています。

こう言えるのも、私たちは農家さんと一緒に、農家さんが「これは使える」と満足してくれるものを開発しているからです。企業側や、エンジニアの思いだけが強かったり、現場を理解しきれず固定概念から抜けられない状態では、いいものは生まれないと思います。

「空中を移動する」という独自の形も、農家さんたちによる現場の視点があってこそ生まれたものです。

Q.収穫ロボットを導入した時の、農家のリスクはどんなところ?

高橋氏:生産者側のリスクは、ほぼないと思います。初期導入費に3年間のメンテナンス費用も含めているので、安心してください。もちろん当社のロボが100%完璧ではなく、これからも農家さんと一緒に改善していく予定です。

リース契約による手数料はロボ使用による売り上げの10%。自然災害で売り上げがなかった場合はいただきません。どこまでも農家さんとともに歩む決意です。

Q.小規模の稲作農家でも、利用価値があるスマート農業の技術はありますか?

高橋氏:農林水産省はスマート農業総合推進対策事業における政策目標を「農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践(2025年まで)」と掲げており、機器やシステムのシェアリングなどに対する助成金も検討されています。
小規模農家さんがチームを組んで戦略を練るのは、非常にいいことだと思います。

Q.出口とは消費者の手元に届くまで。ヴァカボさんが出口戦略で大切にしていることは?

長岡氏:消費者の手元に届くまでのストーリーをどこまで伝えられるか、という部分。農家さんのファン作りのためには、発送する農家さんがお客様が箱を開けた時の感動までイメージしながら商品を梱包できるかも大切になってきますね。

Q.これから中小規模の農家が利益を出していく方法とは?

長岡氏:ヴァカボが開催するオフラインの食育セミナーでは、キュウリ3本入り500円程度の価格で販売します。農家さんから購入した野菜に、レシピや保存方法、セミナーによる情報提供などの付加価値を付けることで、都市部の消費者の満足度と見合った価格になるのです。

つまり、付加価値を付けて単価を上げることです。今は有機栽培・無農薬栽培も増えたのでそれだけでは高く売ることはできません。「こんなところで野菜が買えるの?」と意表をつくような販売ルートをせめてみるなど、単価を上げられる販売方法を模索することにチャンスがあるのではないでしょうか。

スマート農業の未来は人財にあり

稲田(ファシリテーター):どちらの事業も、非常に泥臭いというか、人間味にあふれている感じを受けますね。一般的に抱きやすいスマート農業の世界観とかけ離れているというか…。

長岡氏:スマート農業は確かにロボットやAIの部分が取り上げられることが多いかもしれませんが、私たちは出口戦略もスマート農業の一部と捉えています。今後、出口で得られる購買データを農家さんにシェアして作付けの参考にしていただくことも可能です。
有機・無農薬栽培では虫に強い品種を栽培しますが、消費者が求めるからつくるというマーケットインの考え方も農家さんに伝えていきたいですね。

高橋氏:私たちが大事にしているのは、とにかく農家さんと話すこと。農家さんのスケッチからスタートし、プロトタイプの設計も見てもらったりと細かくやりとりを重ねています。とにかく農家さんの熱量がすごく、収穫ロボを世界で一番欲しているのは彼らだと実感しているところです。

稲田:なるほど。
そういった農家さんとつながり、思いを共有するまでに、お二方ともつなぎ役があったわけですよね。

高橋氏:そうですね。新富町にあるスマート農業推進協会の事務局を務めるこゆ財団(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構)が、農家さんや自治体、また県外の企業さんとつないでくれたから、スムーズに進む部分は有り難いですね。

長岡氏:私たちは食オタの存在により、農家さんとのつながりが少しずつ増えています。彼女たちがいなかったら、初めて伺う地方の農家さんに私たちの事業を聞いてもらうだけでもハードルが高いと思います。

▲ヴァカボが運営するクチコミ産直通販サイト「OTAma(オタマ)」

稲田:最後に、お二人からご参加くださった皆様へ一言ずつお願いします。

高橋氏:弊社のエンジニアは、「自分たちの技術が社会実装され目の前で人を喜ばせている」という現実に、生きていることの実感・喜びを噛み締めています。収穫ロボット開発を通じて、エンジニアが農家さんと一緒に課題解決していくフィールドが新富町に誕生しました。エンジニアの方、一緒に新富町でチャレンジしませんか。

長岡氏:日本の農業は生産面と販売面が分かれていますが、両者が手を組んで進まないと、就農者は減り続けます。それぞれ得意なところを出し合って、この「国難」を一緒に乗り越えましょう。

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今後も、スマート農業推進に向けて様々な勉強会を予定しております。

 

 

ライター:矢野由里

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